ある日の遠呂智陣営。
遠呂智が一応の復活を遂げ慶次はそれなりに機嫌がよかった。
ひとつ不満を言うならまだ本調子ではないから、と遠呂智とあまり会えないことだが…まぁそれはいずれ叶うことだ。
若干浮き足だってる陣営を見物するようにふらふらと歩いていると、ふとぽつんと隅で座り込んで他とは違い沈んでいる様子の悟空を見つけた。
いつもは陽気に皆を鼓舞する悟空にしては珍しい光景で、慶次の興味を引くものだった。

「…何だ、やけに落ち込んでるじゃねぇか」
「うるせぇ。あっちいけ」
「どうしたってんだ」
「あっちいけって言ってんだろ」

こりゃあ重症だねぇ、と呟くと尚更不機嫌そうにそっぽを向いた。
聞いても答える様子ではないが、悟空の不機嫌の理由などわかっている。

「清盛がいねぇからか」
「なっ、べ、別にそんなんじゃねぇ!!」

清盛の名を出した途端に悟空の反応ががらりと変わるものだからつい慶次は笑ってしまう。
今朝、清盛は他の妖魔を引き連れてこの陣営を出たばかりらしい。
らしい、と言うのは慶次は特に気にしてなかった故に他から聞いただけだからだ。
その話を聞いててっきり悟空もついていったものだと思ったがこの様子では違うらしい。

「心配かい?」
「別に。オッサンは強ぇから心配なんかしちゃいねぇよ」
「けど?」
「…置いていかなくてもいいんじゃねーかと、思ったりしてただけだよ」

遠呂智が復活したとは言え本調子ではない。
力の全てが戻るにはまだまだ時間がかかるらしく、だが敵はそれを待ってくれはしない。
それを危惧して悟空を残した、とそういうことのようだ。
何せ遠呂智には敵が多い。その心配をするのは仕事当然なことなのは悟空も理解ってはいるらしい。でなければこうして大人しくここに残りはしなかっただろう。
だが、実際残されてみると………この通り落ち込むことになったらしい。

「そりゃ俺様は強ぇけど…こっちにだってそれなりに強い奴がいるしよ、よく考えたら別に置いてく必要ねぇだろ…」
「それで落ち込んでたのか」
「うるせぇよ!別に落ち込んでねぇ!」

つい弱音を吐いたのを誤魔化すためか悟空は怒鳴って返しはしたものの、先には続かない。よっぽど参ってるらしい。
何かを任された、というよりも実質置いて行かれたと思ってしまっているらしい。
仕方ないねぇ、と慶次は呟いて悟空の隣に座る。

「なぁあんた、清盛はあんたに単身仕事任せるってことも多いんだろ?」
「そりゃ…まぁ、少なくはねぇよ」
「だな、俺が傍から見ててもそう思う。だからその働いた分休みでも貰ってんだと思っとけよ」
「休み?」
「あんたそれでなくても随分尽くしてんだろ?それぐらい貰ったってバチは当たらないさ」

尽くしている、と言う表現はなかなか悟空の気を良くしたらしい。納得したような顔で頷いた。

「それに清盛にとっちゃ遠呂智の護衛なんてでかい仕事だ。それを任せられるってことはそんだけ信用されてんだろあんたは」
「信用、ねぇ…」

うーん、と少し考えた後悟空はひょいと立ち上がった。

「ま、少しは気が紛れたぜ。悪かったな」
「そうかそりゃよかった。で、何処行くんだい?」
「変な奴がいないかちょっとそこら飛んでくるだけだよ。一応任された仕事だからな」
「そうかいそうかい」

満足げな悟空に慶次も満足そうに笑ってそれを見送った。











それから数日。清盛らが遠呂智の陣営へと帰還するその道中。
その先頭を遮るように筋斗雲に乗った悟空が現れていた。

「何をしておる悟空」
「見りゃわかんだろ、出迎えに来てやったんだよ」
「出迎え、か。しかし出迎えというにはまだ遠くはないか」

大まかに見てもあと数日はかかるだろう道行だが悟空は何言ってんだ、と笑った。

「こんな距離俺様にとっちゃあっというまだぜ。わかったらとっとと馬下りろよ、とっとと帰るぜ」

そう言って清盛を馬から引きずるように下ろすとその馬を隣にいた妖魔に押し付ける。
一体何事かと配下の妖魔が聞く前に悟空は他の妖魔たちにも聞こえるように大きな声で告げた。

「おいお前ら、俺はオッサンを先に帰すから後は任せたぜ!」
「え」
「ここまで来りゃ敵もいねぇだろ。なんか合ったら来てやるから安心しな!」

何か言いたげなその他大勢の妖魔を置いて悟空は清盛を乗せて筋斗雲を飛ばす。
わーわー騒ぐ声が後ろから聞こえた気がしたがそれもすぐに聞こえなくなって悟空は笑った。

「…どうした悟空」
「何が?」
「やけに機嫌が良さそうだ」
「べっつに、何もねーよ」

そう言いながら悟空が照れ隠しに更に速度を上げると風が強くなったからか、む、と低くうめいて清盛は口を閉ざした。