全てが終わり、私はまた私に戻った。
いや、正しくは終わっていないし、戻りきれていない。
私のいた世界はあの結末を避け、平和になった。
死した者は戻り、世界は新たに再生した。
そして私は・・・・・・・・・
豊かな、変わらぬ光。
空には雲が浮かび、鳥がさえずる。
あの場所と、変わらぬ景色。
しかし、違う場所。
「オル兄ちゃん、どーしたの?」
「ん…?ああ、何でもないよ」
「そんなことよりー、早くおやつーっ」
「はいはい、手を洗ってからだよ」
私がそう言うと、子供たちは元気な返事と共に
自分たちの住む場所…ちびっこハウスに入っていった。
私は私が呼び寄せた英雄の中の一人、アキラの時代にいる。
英雄たちの意志の力、そして私の力で世界は再生した。
だか、私はまだ魔王である私を否定できなかった。
まだ不安定な私が落ち着くまでいればいい、と言われ
そしてこうしてここで暮らしている。
中に入り、子供たちのおやつの準備をしているとその様子を見ていたアキラが呟いた。
「お前、子供好きだったのか?」
「世話をするのは初めてだよ」
「にしちゃ慣れてるな」
「何もしないよりはマシでしょ?」
そう言うのは妙子さんだった。
ここのお姉さん的存在で、優しい笑顔をする女性。
いつだったか、アリシアに似てると思ったこともあった。
アキらはすぐに否定していたが。
「…お前なぁ、俺だって一応いろいろと…」
「ほら、アンタも手を洗いにいきなさい」
「…わーったって!」
この人相手では頭が上がらないのか、
アキラは髪を掻いて答えた。
子供たちにおやつをあげて、そしていつものようにお昼寝させて、私はアキラとリビングに戻った。
「よーやく寝たな」
「お店のほうは?」
アキラは公園でたいやき屋を出している。
何度か食べたことがあるが、なかなかおいしい。
アキラは前にこの店を開いてた人のほうが上手だったと言う。
その人はもう、この世にいないとも…。
「今日は休みにした」
「そうか…」
「どーだ?この時代」
「…平和だね…何かに怯えることもない時代…」
「だろ?」
まるで自慢するようにアキラが笑った。
アキラはこの時代、この場所がとても好きなようだ。
「帰る場所、か…分かる気がするよ」
「…でも、お前の帰る場所はあそこだからな」
「わかってる」
「正直、戸惑ってもいるんだ…こんな平和な世界で、安穏と暮らしてていいのか」
本来私が取るべきだった王位は、親友であるストレイボウに託した。
そしてアリシアのことも…。私は自分の罪を認め、消えようとした。
しかし
『死んだって何の償いになるんだ!
死ぬってことはな、他の奴がまた新たに苦しむだけだ!!
またお前は、お前のことを思ってくれる人を悲しませるのか!?』
アキラや、他の英雄はそれを止めた。
私は 死ねなかった。
そんな私を二人は、いつまでも待つと言ってくれた。
私が私の罪を許せる日まで。
私がまた昔のように暮らせるまで。
そして私は、ここにいる。
「こうしていることで、いろいろと知れた気がする。人のぬくもりや、安らぎ…しばらく忘れていた何かを」
かつて、同じぬくもりを感じたのがとても遠い日のように思えたときもあった。
それはきっと、今でも手を伸ばせば届くようなもの。
「でも、駄目なんだ。まだ何かが…私を苦しめている。
まるで…罪を知らしめる刺があるような…そんな感じなんだ」
「…いいんじゃねーの、それで」
アキラはこともなげに言った。
「罪を許すなんて、難しいことなのに、自分自身を許すなんて、もっと難しくて当然だろ?
でも少しずつ少しずつわかっていって…長い時間がかかるけどそれでも伝えたい思いや叶えたい願いがあればそれは絶対に不可能なんかじゃねぇよ」
「…アキラ…」
いつだって、アキラはこうだった。
決して私より辛い目にあった風には見せずに、私より何か大切なものを知っていて、そして、それを言葉にすることもできる。
少しずつ癒していくような、温かい言葉。
まるでそれ自体に力があるような、そんな気さえする。
「なーんて、俺もえらそうなこと言えねぇけどな」
そうアキラは照れながら頬を掻いた。
そういえば、アキラも大切な人を無くしている。
今のアキラの思いや願いは、きっと…
「アキラ殿ー」
不意に、窓から声がした。
「お?」
「遊びにきたでござるよ」
そこには朧丸が顔を出していた。
アキラの仲間の中でも、特にアキラに懐いている。
時空の歪みが残っている今、時折りこうしてやってくる。
「相変わらず急に来る奴だな」
「暇をもらったので…い、いけなかったでござるか?」
「別に。ほら、中に入ってこいよ」
そういって手を伸ばす。
ああ、そうか。
アキラがしていることは
こうやって手を差し伸べているだけなんだ。
かつて私が、友にそうされたように…。
「おいしいでござる♪」
「お前…菓子食いにきたのか?」
子供たちにあげたお菓子の残りを食べる朧丸を見て、アキラは呆れて言う。
「いいじゃないか、好きなんだし」
「…何だよ、その言い方」
「特に深い意味はないよ」
私が微笑みつつそう言うとアキラは渋い顔をする。
それを見て朧丸が笑う。
私があの世界に呼んだときの彼は、こうではなかった。
それを変えたのは、アキラだった。
アキラみたいになれればいいな、と
思ったりもする。
そういうときっとアキラはこういうだろう。
お前はお前だ、と。
あぁ、そういえる私になりたい。
そうなれれば、きっと…
あの日々に、また戻れるのだろうか
いや、戻ってみせる。
そのために私はここにいる。
ここで、こうして生きている。
少しずつわかっていこうと思うよ。
だから、今はこうしていよう
暖かい 変わらぬ日の光を浴びながら