かしゃかしゃと音をたてて生クリーム泡立てる。
甘い匂いがキッチンに広がっていて、自然笑みがこぼれる。
以前ならばこんな匂い嫌いだったのに、とアーロンは思う。
いや、そもそもこんな行為すらしたことなかった。
それほど恵まれていた地ではなかったし、そういうことをしようとも思わなかったから。
それが今や笑みがこぼれるほどになっているなんて

玄関の方から慌ただしい足音が聞こえた。
あぁ、帰ってきたのか、と顔を上げる。
甘い匂いをかぎつけてきたのか目を輝かせてキッチンに来た。
置いてある材料で何を作っているのかすぐに分かったらしい。
満面の笑みで生クリームを泡立てる俺の手を取る。

「アーロン、分けてっ分けてっ」

まだちゃんと泡立っていないそれと俺の顔を交互に見てティーダがせかす。

「駄目だ、ほら」

ボウルごと渡すと、ティーダはきょとんと俺を見つめた。

「何?」
「体力が有り余ってるみたいだからな。任せたぞ」
「えぇー?!アーロンがやればいいだろ!」
「働かざるもの喰うべからず」
「う…わかったよ!やればいいんだろ!」

そういい残してティーダはダイニングの方に行った。
どうせまわりに飛び散るぐらいの勢いで混ぜるならまだ片付けやすいキッチンでやってほしかったんだがな…そう思ったが合えて口には出さず次の工程へと移った。

ケーキはあえてシンプルなもの。
生クリームに苺などのフルーツ。
ロウソクは…誕生日じゃないからいいだろう。
それらをどう飾りつけようかと考えながらスポンジを作った。
ある程度出来た頃、ティーダが息を切らせてやってきた。

「…出来たっ」
「ご苦労。これに入れてくれ」

そういって絞り袋を渡す。
ティーダは素直にそれに生クリームを入れていく。
甘い匂いが部屋中に広がっているようでわくわくした顔で作業を進めている。
スポンジも出来た。あとはデコレーション。
絞り袋を受け取ろうと手を伸ばすがティーダがそれを渋る。

「アーロン、一口いい?」
「つまみ食い禁止」
「ケチ」
「そうかそうか、ケーキ没収がいいのか」
「あぁっ!!うそ!冗談だって!!」

慌ててティーダが絞り袋を渡す。
このケーキが美味いことぐらい、日頃の俺の料理の腕をみれば一目瞭然。
それを食べれないという事態はやはり避けたいということだろう。
俺がデコレーションしているのを素直に見ている。

「あ、じゃあ…アーロンのつまみ食いは?」

いい事を思いついたと言わんばかりに目を輝かせて擦り寄って言う。
もちろんそのぐらい、計算済み。

「そうだな…一週間の飯当番と洗い物係と全部屋の大掃除。あと…」
「うわ!マジ?!」

先程より速いスピードでティーダが飛びのく。
その極端な反応に思わず笑う。

「そう焦らなくてもケーキも俺も逃げないだろ?」
「う…」

まだ何か不満があるのか。
少しからかう気持ちで絞り袋の生クリームを指に少し取る。

「それに…どうせクリスマスだ。後で何をしたって…許されるんだぞ?」

そういって、誘うようにクリームを舐める。
するとティーダも動揺したらしく、慌てて目をそらす。
その顔を見れば何をしたって…の何に当たる部分のことを目まぐるしく考えているのが分かる。

「じゃあ待つな?」
「はーい…」

その様はお預けをくらった犬そのもので。
だがすぐにその後のことに思考は行ったらしい。

「じゃあ早く作ろう!」
「わかってる」



言葉にせずつぶやく。
お前以上に俺だって楽しみなんだ
この聖なる夜が