その日は珍しく政宗は仕事をしていた。
終えるまで慶次に触れるのは禁止と釘を刺され、
またそう言うときに限って慶次はやたら構われたがる。
終わったらいくらでも構ってやる、と言えば慶次は不満そうな表情を浮かべながらそれでも頷いた。

そんなやりとりをしたのがつい先刻。
気がつけば慶次は柱にもたれかかってぐーすかと寝ていた。
ようやく仕事を終えてさて憂さ晴らしでもするかと顔を上げた政宗はそれを見てため息をつく。
慶次の昼寝癖は存外性質が悪い。
寝起きが悪いわけではないが、起こすのが躊躇われるぐらいによく眠っているのだ。

「おい慶次」
「ん〜…もう食えないって…」
「…ベタな寝言言ってんじゃねぇよ」

試しに足で軽く小突くが起きる気配はない。
むにゃむにゃと幸せそうに笑う寝顔を可愛いと思う反面、
それをずっと見ているだけで満足できるほど政宗は人が良い訳ではない。
ぐっと顔を近づかせ頬に触れてみるが起きる気配はない。

「とっとと起きねぇと襲うぞテメェ」
「きっ」
「!」

あながち冗談ともいえない政宗の発言にいつの間に現れたのか夢吉が慶次を守るかのように手を出した。
人に手は出さないように言ってある、とは慶次の談だが主を守るためならと言うことだろうか。
咄嗟に距離をとるが幾分か早い爪に指先に軽く痛みが走る。

「何だテメェ…俺の邪魔しようってのか?」
「きーっ」
「いい度胸じゃねぇか…」

指先を少し引っかかれただけとはいえ喧嘩を売られて黙ってはいられない。
ドスを聞かせて脅せば慶次によく似た仕草でかかってこいよ、と言うように挑発する夢吉。
戦場さながら睨み合いが始まるとその光景をどこからか見ていた小十郎が慌てて飛び出してきた。

「政宗様!!小動物相手に大人気ないことは止めてください!」
「止めるな小十郎!どっちが上かこいつに思い知らせてやらねぇと気が収まらねぇ!」
「それが大人気ないと言っているんです!!」
「ききーっ!!」

止める小十郎と戦う気満々の1人と1匹の傍から見れば呆れるような騒ぎが始まった。






「何だようるさいなぁ…」

わーわー騒ぐ2人と1匹を他所に、寝惚け眼をこすりながら慶次がようやくと目を醒ました。
途端夢吉は政宗のことはどうでもよくなったのかころりといつもの人懐っこい小猿の顔に戻り慶次の頬を可愛らしい仕草でさする。

「ん…夢吉起こしてくれたのか?ありがとなー」

よくされる行動なのか、いつもの様にその頭を撫でて答える慶次の姿を政宗がよく思うわけがない。

「ったく調子の良い猿が…おい慶次そいつを貸せ!」
「あれ?何だ政宗いたの?」

今気づいた、と言わんばかりに呑気に言われ政宗の辛うじて抑えていた何かが切れた。

「…おい小十郎、床の準備しろ」
「承知しました…」

政宗の本気の気迫に猿と喧嘩されるよりはマシかと小十郎が答える。
席を外す小十郎と何やらいやーな雰囲気をかもし出す政宗に慶次はようやく何か不味いことを言ったことに気がつくがもう遅い。

「な、何?どうしたんだよそんな怒って?」
「充分寝たな?」
「あ?まぁ結構寝れたけど…」
「OK、なら暫く寝なくていいな?」
「え、ちょっ、何の確認だよそれ…」
「寝る暇なんてもうやらねぇって言ってんだよ」
「えぇぇぇ!?ま、待ってそんないきなり何言って…うわぁぁぁ!!」




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その後の政宗と夢吉の攻防についてはまた別の機会に。