天気のいい昼下がり。
何気なしに城下に出てみればどういうわけか昔からの知り合いに遭遇、何て話は珍しくない。
ただそれが喧嘩別れ(と言うには重過ぎる事情だが)をしてから暫く会うこともなかった、さらにその相手が陽射しを浴びながら気持ちよさそうに寝ているとなるとこれは珍しい話では収まらない。
一通りの多いところからは幾分か離れているとはいえ、こんな所で眠るには些か無用心すぎる。
もし何かあったとしてもそれは秀吉には関係の無いこと…とは言え、ほっておくには相手を知りすぎている。

軽く近づいてみるが、起きる気配はない。
もしかしたら人の気配で起きるかもとは思いはしたがよくよく考えればそんな繊細な神経を持ち合わせていないことぐらいよく知っていた。
仕方なしに軽く屈んで肩を揺する。


「慶次」


こうして名を呼んだのはいつぶりだろうか、そんなことがふと頭をよぎる。
慶次はうぅん、と身じろぎはしたが起きる気配はない。
こういう所も昔のままかと思いながら今度は少し強く揺する。


「慶次」


もう一度呼ぶと慶次はゆっくりと目を開く。
体を起こしてあくびを一つ、そして今気づいたというように寝惚け眼で秀吉を見上げた。


「…ひでよし?」


起きたならもういいだろう、と離れようとすると慶次がその首に腕をまわして抱き寄せた。
一瞬振り払おうとしたが、寝惚けているのだろうかすりすりと頭を胸にこすりつけ温もりを確かめるような慶次の仕草にその動きが一瞬止まる。
こういう子供のような所が過去、決して不快ではなかったことは覚えている。
だが決別した今、その感覚に浸っていてはいけない。
慶次の腕を掴んで引き剥がすときょとんとした顔で見つめてくる。
何か言おうと口を開いた瞬間、聞き覚えのある金属音が近づいてきた。


咄嗟に慶次を突き飛ばし自分も一歩引くとそのふたりの間を鞭にも似た動きで長い剣が通り過ぎ、そして戻っていった。
突き飛ばしたせいで目は覚めただろうがどこかに頭をぶつけたのか慶次が何かを言いながら頭を抱えている。
そんなことより秀吉は剣の戻っていった先を見る。
そこにいたのは慶次とは違い今でも友と呼ぶ人物だった。


「何をしているんだい慶次君…」


剣を通常の形に戻し、だが殺気は依然出したまま半兵衛は慶次に問う。
つまりは秀吉と慶次の姿を見て、慶次が秀吉に迫っていると…そう思ったのだろう。
そしてそれは秀吉をいろんな意味で信頼している半兵衛にとって不愉快極まりなく咄嗟に刀が出たと…それにしては避けなければ慶次はもちろん秀吉にも当たっていた距離になるのだがそのことはとりあえず置いておく。
秀吉は普段ならともかく、半兵衛が一度こうなると非常に面倒なのは身に染みている。
ましてや秀吉が絡んだことでキレると特にそれは酷い。
さてどうするかと思案していると名を呼ばれ顔を上げた慶次が秀吉と半兵衛を交互に見て不思議そうに首をかしげる。


「何でお前らここに…って俺何してたっけ?」
「惚けるのも大概にした方が良いよ…『僕の』秀吉に迫るなんて言い度胸しているじゃないか」


その変な言い方は止めろ、と内心思いながら秀吉は頭を抱える。
余談だが半兵衛としてはかなり本気で、しかし秀吉はそんなことはまったく思っていないわけでそれが余計半兵衛をこのような状態に追い込んでいることを秀吉は知らない。
とりあえずこの場を収めることが先決かと秀吉は何とか宥めようとする。


「半兵衛落ち着け…これには事情が」
「君も君だ!僕がいくら迫っても拒むくせに何で慶次君の時だけ…!」
「え!?そ、そうなのか秀吉?」
「違う!!」


何故か鵜呑みにする慶次と嫉妬(なのは秀吉は知らないが)に狂う半兵衛との間で
秀吉はこんなことならば何気なしに外に出るものではないなと一人ため息をつくのだった。