※この話は何故かバング殿が子供になっているところから始まります。







バングが幼子の姿となって早数日…。
始めこそ扱いに困ったものの今ではハクメンを始めバングの部下たちも些か慣れてきたものである。
何時になれば戻るのかという懸念はあるものの幼い姿のバングは愛らしく元に戻るのは惜しいと考える者すら密かにいたりする。
人懐こいバングの性格にこの容姿では無理は無いのかもしれない、とハクメンは思う。
子供の相手は得意ではないがバングがにこりと笑うと気持ちが綻ぶのは事実だ。
精神こそ子供に戻ってはいない…らしいが時折それを忘れてしまいそうになる時がある。
多少感情が表に出やすくなっている気概があるが…もしかすると見せぬだけで本当は不安なのかもしれない。
だとすればなるべく傍に居て安心させてやりたいが、とその発想自体が子供に対するものに近いことには気付かずハクメンは思う。

………だが。

「大変ですお頭が………!!」

はぁ、と大きくため息をついてハクメンは頭を抱えた。
一人で何処かに出かけたきり帰ってこない、などと本当に子供ではないか。
部下たちもあちこちを探しているらしいが見つからず、まさか攫われたのかと騒ぎになりかけている。
過保護になる気持ちは分からなくはないが…と思いつつハクメンも浪人街を探すことにする。
子供の足だ、そう遠くには行ってはいないだろう。
だがそれならば他の者達が見つけてもいいはず、となると…。

「………ー…」

思案しながら探し歩いていると小さな声が耳に入った。
辺りを見回すが街の外れに近いこの場所に姿は無い。
身を隠せるような場所もなくあるのは木造の橋と大きな桜の木………。

「…ふぇっ…」

声をした方を見上げる。そう、見上げた先から声はした。

「は、はくめん…どのぉ…」
「………何をしている」
「お、おりられなく…なってしまったのでござる…」

大きな桜の木の枝に両手両足でしっかりとしがみつきながら涙目でバングが答えた。
思いのほか高い場所だ、子供の体では尚更高く感じるだろう。
しかも迂闊に落ちれば何処に落ちるかわからない。
この街の性質上、下手に道を外れてしまえばカグツチの最下層まで行ってしまうこともバングはその身で経験しているだろう。
だがそれはあくまで大人の体での話、果たして子供の体がその衝撃に耐えられるか…。

「はくめんどのー…」
「…とにかく、動くな」

木から下ろしてやると余程心細かったのかバングはしっかりとハクメンにしがみついた。
こうしていると本当に子供のようだ。

「怪我は無いな」
「うう…こわかったでござる…」
「何故あのような処に?」

そう聞くとバングはバツが悪そうに顔を背けた。

「きのぼりくらいならば…できるかと、おもって」
「…降りれなくなっているではないか」
「む、むかしは!!むかしはできたのでござる!!」

必死になって言い返す姿に小さくため息を漏らすとバングはしゅんと俯いてしまった。
言い過ぎただろうかとハクメンが考えていると小さい声が聞こえてきた。

「むかしは…できたのでござる…」

そう呟いたかと思うと堪え切れなくなったのかぽろぽろと涙を零し始めた。

「何も嘘だと謂っているわけではないだろう…泣くほどのことでは…」
「ちがっ、ちがうのでござる…」
「何が違うと…」

そう聞くとバングは泣きじゃくりながら途切れ途切れに答えた。

「ひっく…こ、この、からだになって、せっしゃ、みなにめいわくばかりで…っだから、すこしでもっ、で、できることを、さがそうと…っ」

やはりと言うべきか…このような事態になって当人が不安でないはずが無い。
それでもバングは己に出来ることを探そうとしていたのだ。

「気持ちは理解る、だが一人で無理はするな。皆心配していたぞ」
「ごめ、ごめんなさ…」
「私に謝るな」
「ふ、ふぇ…」
「…泣くな、怒っているわけではない」

己に何が出来るのかを考え、今の姿と同じくらいの年齢の時のことを思い返しそれを試そうとしていた…それを責めることが果たして出来るだろうか。
子供の姿になっていてもやはりバングはバングなのだ。
誰かのために出来ることならば何でもしてしまう…己のことすら顧みずに。
そんなバングが愛おしくてハクメンは優しく抱きしめた。

「無事でよかった」

子供の姿であるのを免罪符に抱きしめてしまったがバングに抵抗は無かった。
心配していた、と言うのが伝わったのだろう。
ハクメンの腕の中から小さく、ごめんなさい、と言う声がした。















帰り道、屋敷に近づくにつれバングがそわそわとしだした。
如何したのかと見下ろすと遠慮がちに見上げ、口を開く。

「はくめんどの…あの、その…」
「如何した」
「みなには、せっしゃがきからおりられなくなっていたこと…だまっていてくださらぬか?」
「…何故だ」
「お、おりられなかったのはじじつでござるが…せっしゃにもその、た、たいめんというものがあるのでござるよ!!」
「つまり…忍びの頭領ともあろうものが子供の姿とはいえ木から下りられなくなって泣いていた…などと知られたくは無い、と」
「そうでござる!!」

必死な面持ちで言われると一も二もなく承知したくなる。

「だがな…」

ハクメンが何か言う前に屋敷の方から数名の人影がやってきた。バングの部下たちだ。
バングが慌てて何事もなく大丈夫だったように取り繕うとしたがそれは部下たちの言葉であっさりと崩された。

「お頭ぁー!!一人で木に上っただなんて大丈夫ですかい?」
「木から下りられなくなったぐらいどうってことないですぜ!!」
「な、ななななな!?」
「…些か謂うのが遅かったようだな」

戸惑うバングを他所にハクメンは冷静に言い放った。
曲りなりにも部下たちも忍びである。
バングが普段から言う『一万里離れた蟻のくしゃみ』程ではないとしても聴覚はそれなりに良いのだろう。

「木から下りられなくなるなんてよくあることですぜお頭!!」
「そうですぜこの間も近所の猫が屋根から下りられなくなって鳴いてやしたし!!」
「せ、せっしゃはねこじゃないでござるー!!」

部下たちは彼らなりにバングが気負いすることないようにと励ましているのだろう。
とは言え真っ赤になって必死に言い返すバングにハクメンは仮面の奥で笑った。