「春だなぁ」
「あぁ、そうですねぇ」
春の陽気を堪能しながら呟くとのんびりとした声が返って来た。
厩に長居するには暖かいに越したことはない。
そうでなくとも春と言うのは心踊るもので、往壓も例外ではなかった。
「桜が綺麗な季節だ。そうだ皆で花見にでも行かねぇか?」
「馬が花見だなんて聞いたことありませんよ」
「いいじゃねぇか、お前がいりゃアトルも喜ぶ」
その光景を思い浮かべてふっと雲七が纏う空気を柔らかくしたがそれもすぐに戻した。
「…しかし何と言うか、どうもそりゃおかしいことになるでしょうに」
「なにがだよ」
アトルの喜ぶことなら雲七を納得させるのは簡単だと思ったのに。
思惑が外れて多少拗ねつつも、首を捻る雲七に往壓は理由を問う。
すると雲七は言いにくそうに首を傾げながら、答える。
「…サクラが桜見に行くなんて、洒落にしちゃ性質の悪い」
は?と言うのが往壓にまず出来た反応だった。
察しの悪い往壓に続けて雲七が言う。
「桜肉、って言うでしょうが。馬の肉は」
途端その洒落の悪さに往壓が慌て出した。
「な、何でそういうこと言うんだお前!!」
「いやぁ気にしだすと気になっちまいまして。一説にゃ肉が桜の色に似てるだとかますますこれは…」
「もういいもういい!それ以上言うな!」
桜の色の肉、と言われて一瞬妖夷の肉の鮮やかな色合いが頭を過ぎりあぁ何だ結局肉だなぁ、なんて思ったのがどうも居心地が悪くて往壓は無理矢理雲七の言を遮った。
まさかそんな答えが返ってこようとは夢にも思わなかった。
純粋に、皆だけでなく雲七も喜ぶだろうと思って言ったのに。
「別に俺はお前にも楽しんでもらおうと…」
「わかってますよ。アンタはそこまで底意地は悪かない。
しかしどうせなら夜桜見物にしましょうや、ふたりっきりで」
「…そうだな」
それじゃあ俺が酒が飲めないだろうが、と往壓がぽつりと呟いた言葉はおそらく聞こえていなくとも雲七は理解していたのだろう。
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春ですね、雲往編。
一番底意地が悪いのは書いてる私です。