木漏れ日が心地いい広い空き地の大きな木の下。この場所はアビが見つけた場所だった。
日当たりもよく町並みからも遠い、体を休めるには絶好の場所。
ごろりと横になって休んでいると小さくにゃぁと声がした。
声に呼ばれるように横を見ると白い毛並みの猫がなにをしているの?とでも言うようにアビを覗いている。
「お前か…おいで」
体を起こしてアビが呼ぶとにゃんと小さく鳴いて膝へと登る。
くるりとまるくなってそこでくつろぐ頭を撫でてやるとごろごろと咽喉を鳴らしてよろこんだ。
この辺りは猫が多い。アビと似たような理由で猫もここで寛いでいるのだろうかと思うと複雑ながらも気持ちが和んだ。
まだ山にいた頃は動物ともよく触れ合っていたな、と感傷に浸りながら柔らかい毛並みを楽しむ。
気持ちがいいのか丸くなったまますりすりと頭をこすりつけてくる猫にアビは笑みを浮かべる。
「お?いい場所にいるじゃねぇか」
声に顔を上げるとそこに往壓がいた。
「往壓さん。どうしました?」
「ちょっと昼寝でも、っと…先客か?」
「えぇ、まぁ…」
寝心地のいいところを探す様はなんだか猫に似ているなと思っているといきなりの来訪者を警戒したのか今まで寛いでいた猫がぴょんと膝の上から逃げ出してしまった。
去る姿を見ながら往壓は場が悪そうにぼりぼりと頭を掻く。
「…逃げられちまったな」
「人に慣れてないんですよ。俺だって最近懐かれたんですから」
「へぇ、アビが飼ってるのか?」
「いいえ、たまに餌をやったり蚤取りをしてやったり…」
「それは飼ってるみたいなもんじゃないか?」
「確かに気がついたら懐かれてしまうんで名前も付けてやったりもしますが…
時折りこうして触れ合うだけですから、飼っているとは言えないですよ」
「結構懐かれてる風に見えたがそんなもんか。じゃあさっきのは何て言うんだ?」
何気なくそう聞かれてアビは動きを止め答えるか答えないべきか悩んだ。
確かに名前はつけた、つけたのだが…。
どうした?と首をかしげる往壓にアビは躊躇いながら口を開く。
「ゆ、『ゆき』…と」
「あぁ、『雪』か。白いからなぁ」
早合点してそうかそうかと頷く往壓にアビは違う、そうじゃないんです…とはさすがに言えなかった。
更にいい名前じゃないかと褒められればもう困りきってしまい曖昧に笑いを返すことしか出来ない。
今更密かに想っている人、つまり今アビの目の前にいる男の名前から取ったなどと言えるはずもない。
それも自分に一番よく懐いている猫に、ちょっとした期待も込めてだなんて。
それとはまた別の日、猫の溜まり場になってきたアビの場所に往壓はまた来ていた。
この日はめずらしく多く猫が集まっていて思い思いに寛いでいた。
それを見ながら二人でのんびりと話しているとふとそう言えば名前があるんだったなと往壓が切り出した。
「あっちのは?」
「あれは黒いから『くろ』です」
「…あれは?」
「あれは『とら』。虎柄だから」
「なぁ…お前少し安易すぎないか?」
呆れられたのか笑いながら言われれば返す言葉もない。
「雪はちょっと洒落た名前だと思ったんだけどなぁ」
「…なら往壓さん」
そう言って遠くのほうでまるくなっている猫を指差す。
遠巻きにアビたちの方を伺うでもなく我関せずと丸くなっている。
あれは最近此処に来たやつだった。
アビが餌を与えても甘えることもなく我を貫き通しているのは猫らしいといえば猫らしい。
「あの猫がどうした?」
「あいつはまだ名前をつけてないんです。
あの猫に名前をつけるなら何とつけます?」
「そうだなぁ」
いい名前はないものかと往壓が考える。
名前を付けるとなると案外難しい。結局はわかりやすい名前になってしまう。
凝った名前をつけてもよかったが…前みたいなことになると流石に恥ずかしい。
アビがそんなことを思いながら膝のゆきを撫でつつ答えを待っているとぽつり往壓が言う。
「『雲』…」
アビが驚いてはっと顔を上げる。その拍子にゆきが膝から降りた。
当の往壓はアビを見てにこにことしながら続ける。
「雲の色に似てやしないか?白っぽいけど灰がかっていて」
我ながらいい名前だとでも思っているのか往壓はご機嫌に答えた。
ふと視線をめぐらすと膝から逃げたゆきが今名前をつけられたばかりの猫へと擦り寄っていた。
それを見て、あぁ、確かに合っているなと思ってしまう自分が情けなくてアビは小さくため息をついた。
やがて用事があるからと往壓が去った後になってアビは頭を抱え、呟く。
「…何自分で自分の首を絞めているんだ俺は」
そう落ち込むアビに戻ってきたゆきが慰めるようににゃあと鳴いた。
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やはり相変わらずなアビ→往壓でした。
往壓さんは変なトコにぶくて困ります。