雲七の肌に触れる時、俺はいつも怯えていた。
触れられないかもしれない、すり抜けてどこか消え去ってしまうのではないかと、そんな不安。
まさに雲だ。頭上にいつもあるのに届かない、触れられない、触れられるのかもわからない。
優しく微笑むその顔も温かく強い腕もいつまで俺のものなのかわからない。
自分のことなんて悪い風にしか考えられない。こいつのことは良い様にしか思えない。
好かれるわけなどない。こんな俺なんかが、俺みたいな奴なんか…。

「往壓さん」

優しい声色。あぁ何もかも好きで好きでたまらない。
求めるものは何だってくれる。声も熱も俺の欲しいままに与えてくれる。
でも俺はこいつに何も出来ない。何も、何も、何も。
ただ縋り求め貪るばかりできっとその身全てを喰らいつくしても俺は満足出来ない。
いつだって自分のことばかりだ。もう嫌だこんな自分。こんな俺を誰が求める。誰が愛する。
そんな俺の、たったひとつのよりどころ。
愛していると言ってくれる俺の中でひたすら大部分を占める存在。
だが決して永遠ではなくて、それは俺にとって堪えきれないほど不安で。
もしそれが失われた時、俺はどうなる?

「大丈夫ですよ」

宥められるように慰められるように囁かれる。
口付けて抱きしめてもう一度今度は深く口付け。
やんわりと心がほどける。その代わりに強い劣情。
欲しい。欲しい。欲しい。ただお前をお前だけを俺は。
駄目なんだこんな感情では。本当に喰らいつくしてしまう。
嫌われてしまう、消えてしまう、俺の前からいなくなるなんて考えるだけでも嫌なのに。

「私はあなたといます。ずっと、ずっと…」

それが真実ならば良いのに。
それだけがただあれば俺はそれだけでいいのに。

それでも、予感は消えない。



いつかきっと、雲七は俺を置いていく。



そして、俺はひとりになる。



不安を消せなくてせめてそれを一瞬で良いから忘れたくて俺はただ必死にその唇を貪った。