「七…」

愛しさを込めて名を呼ばれ答えるように口付けを返す。
そうすることでこの人が笑うのならば余計に、そうせざるを得ない。
それはこの人の為でもあり、自分のためでもあった。
何より多少の艶含んだ縋るような顔付きで強請られれば拒むことなど誰が出来るだろうか。

「まだ足りませんか?」
「よせよそうやって煽るのは…俺だってもうそんな若くないんだ」

そう言いながら笑いかける顔が更にこちらを煽ってしまうからこの人は始末に負えない。
自覚がない分、余計に。だがそんなところさえも愛しい。

「いえいえ往壓さんはまだまだお若いですよ」
「お前は…ちょっと老けたかな」
「はは、それは手厳しい」

笑いながら過去を振り返る往壓さんの前で私は少し複雑な気分だった。

私は七次ではない。七次を元に作られていたとしても決して同じではない。
だが往壓さんにとって自分は紛れもなく雲七であり七次なのだ。
こうして己の存在を確認しあうかのように抱きあう時にふと思う。
七次は往壓さんを愛していたのだろうか。
自分の中にある七次の記憶だけでそれを判断するのは容易ではなかった。
今こうして往壓さんを愛する気持ちは七次のものだったのか、それとも雲七としてのものなのか。その区別は私には分からない。
極端な話この人が寂しさのあまりそう『作った』のかもしれないことだってありうるのだ。
七次に愛されたいと願ったからこうして往壓さんを愛する雲七が作られたのかもしれない。
だがそうだとしてもこの思いに変わりはないのでそれ自体に大した意味はない。
しかしもしそうだとしたらそう願う程往壓さんに愛されていた七次が羨ましかった。
自分に向けられるこの感情は決して自分だけで得たものではないのがもどかしい。
こんなにも愛する気持ちは確かなものなのに、愛されるほどそれは私だけに向けられたものではない気がして。
…己自身に嫉妬とは、なんとも情けの無い話だ。

「どう、した…?」

思いをめぐらせていると掠れた声でそう訪ねられた。
行為に耽れば声を殺すことも忘れるからだろうか、いつものことながらそれを聞くと少し心苦しい。

「いえ…少し肌寒くはありませんか?」

言いながら抱きしめれば熱いくらいだと笑いながらも抵抗はされない。
背に腕を回されぬくもりを感じ取るかのようにすりすりと胸に額をこすりつけてくる。
動物じみた仕草ではあるが悪くはない。お返しに、と頭を撫でるとくすぐったいのかくすくすと笑う。

「なぁ七次」
「雲七でいいですよ、2人にしか通じない呼び名なんて粋でしょう」
「そうかな…まぁお前が言うなら」

情事の後のこの人は酷く、無防備だった。
幼い頃の経験からか心から安心したことなどなかったのだろう。
だからこそ手が触れ合うような些細なことでさえこの人は安堵した顔を見せる。
こうして体の繋がりを持った後ならばそれも最たるものなのだろう。
それでも、本当に心の底から安心しているとは言えないことぐらいはわかってはいるが。
だからこそこうしてまだぬくもりを求める。

「雲七」
「なんですか往壓さん?」
「…もっと、触れてくれ」

強請る唇に深く口づけながら抱き寄せる。

七次が往壓さんを抱いていなくてよかった、と思うときがある。
こうして熱を重ねあう方法は、私が教えたそれは唯一『七次』のものではない。
口付けの仕方も体の開き方もそして欲に耽る往壓さんは紛れもなく私だけのものだった。
それにもし自分とその愛し方が違うことで全てを思いだしなどしたら、惨め以外の何者でもないではないか。

いつか全てを思い出したその時、この人が『私』を愛してくれればどんなにいいだろうか。
そんなことを考えながらただ一人愛しい人の望むままに肌を重ねた。