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狂夫(きょうふ)…気の狂った男
「まさかこれがアンタの仕業とはな」
座敷牢の柱に後ろ手に縛り付けられながら往壓は目の前に立つ男…本庄へと話す。
街中で拉致され気がつけばこの有様。
さてどうしようかと思っているところに現れたのが浮民を毛嫌いするこの男。
上からの指示だか本人の意思だかは知らないがわざわざ気に入らぬ者を捕まえてどうするつもりだろうか。
どうせ大したことではない、それに何をされたとしても話すこともないし従うこともその利益も何もないだろう。
なのにこんなことをしなければならない本庄の立場やら心情を思うと無様だなと往壓は笑った。
そんな往壓を本庄は鼻で笑い、かと思ったところに刀の鞘で往壓の鳩尾を突いた。
一瞬息が詰まり咳き込む往壓の前に座り込みその顎を掴んで自分の方を向かせた。
そのまま肌の触感を確かめるかのような指先の動きに悪寒が走るがそれを必死に隠して往壓は強がってみせる。
「はっ…驚いたぜ、あんたにそう、いう趣味がっ…ある、なんてな」
咳き込みながらもまだその態度を改めぬ往壓に本庄はただにやりと笑って立ち上がった。
見下ろされる視線に何か嫌な予感がしてその目を往壓は睨みつける。
「いつまで…そう言っていられるかな」
「くっ…ぅ!?」
往壓のどういう意味だと問おうとした言葉は一瞬で封じられた。
本庄の足が往壓の下帯につつまれている急所に足を置いたからだ。
力を入れられていないから潰されるというわけではなさそうだがそれでも体に緊張が走る。
「どうした?まさかこんなことで感じるわけでもあるまい?」
「そりゃ、そうだろうな…っ」
「ならこれはどういうことだ?」
そう言いながら足で往壓の性器を二、三度擦る。
踏みにじられるかのような動きは足袋の感触とともに下帯とその中に摩擦を呼ぶ。
そこに意識を集中しているせいかそれはやけにはっきりとした感覚で伝わってきて意思とは裏腹に下肢に熱が集まっていく。
「ふっ…んぅ…」
「さすが浮民、いやしい生き方をするだけの事はある」
そう言いながらさらに足袋の中で足の指をやわやわと動かし刺激を追加する。
まるで物を扱うかのような行為に嫌悪する心とは逆に想像だにしなかった感覚とだがもどかしい刺激、そしてこの張り詰めた状況に体は徐々に昂ぶりを露にしていく。
快楽に弱い体をこれほど疎ましく思ったことはないだろう。
荒くなる息を抑えようとしてもそれはどうしても漏れてしまう。
「は、ぁっ…」
「どうした?」
もはや抵抗を失くした往壓ににやりと残酷な笑みを浮かべながら本庄が問う。
「そんなに吐き出したいならそう言ってみろ」
「誰、が言う…か…っそんな……ああ、あぁぁっ!」
刹那に残っていた理性を駆使して強がって見せようとしたがそれは急に動きを早めた陵辱に簡単に形を無くした。
高く声を上げながら急激に高まる熱に限界だ、と思ったところで刺激はふっと消えた。
何故、と上げた顔が未だ笑みを浮かべたままの本庄の視線にぶつかる。
遊ばれている。そう感じ憤りにまかせて何かを告げようとした口は肉体の疼きを直に反映しているかのように唇を振るわせて言葉を遮る。
ふるふると震える体が何を求めているかは明白で、切望故か涙がつうと流れた。
「あ、あ…」
「一言言えば楽になるぞ」
蔑みを込めた声色で告げられれば従いたくないと言う思いが強くなる。
だが体を走る行き所のない熱がじわじわと残っていた自尊心を侵食していた。
駄目だ、駄目だと抗う気持ちなど簡単に崩れ去る。
心にあるのはただこの熱を吐き出したいという劣情。
「…い、…せて…」
「聞こえないな」
「いか、せて…くれ…っ」
息も絶え絶えに告げると本庄がさぞ楽しいのだろうか声を上げて笑った。
悔しくて顔を伏せるが声までは遮ることは出来ない。
やがて笑うのをやめた本庄が俯いた往壓の顎を掴み己の方を向かせそして顔を見てにやりと笑う。
あぁやっとだと往壓が息をつくのを見てその笑みが急に真顔になり、告げた。
「…誰が貴様のような者の頼みなど聞くか。浮民如きが」
往壓が驚愕に目を見開くのとほぼ同時に本庄は露を零す往壓自身を力任せに踏みつけた。
全身を引き攣らせながら声にならぬ雄叫びを長くあげ、それが終わると往壓はだらりと弛緩した。
痛みからか、屈辱からか、改めて涙が溢れた。
ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。
そんな往壓を満足げに見た本庄は足をあげ、そこの異変に気付く。
足袋には下帯からにじみ出た白濁がどろりと滴り、往壓が達してしまったのだと雄弁に語っていた。
踏みつけられた衝撃でだとわかると本庄はまた声を上げて笑う。蔑みを込めて。
「これがそんなに悦かったか。どうやら貴様を見縊っていたようだな」
鼻で笑いながら揶揄され怒りが戻ってくる。
誰のせいだと吠えてやりたいが体が言うことを聞かない。
痛みもだが欲を吐き出した後の全身の疲労が往壓を重く縛り付けていた。
「足袋が汚れてしまったな…清めろ」
「んぐっ!?」
叫ぼうとした口に乱暴に足袋を足ごと押し込まれる。
大きすぎるそれに息を遮られ清めるだとかそんなことは考えられなかった。
ちゃんと咥えろ、とさらに押し込まれたところで息すらもまともに出来ない。
ただ苦しくて苦しくてまた涙が溢れた。こんなやつに涙など見せたくもないというのに。
「ん、ん、んぅっ…」
「ふん、下手糞が」
何を期待していたのかは知らないがそう穿き捨てて本庄は往壓の口を解放する。
足りなかった息を補うように大きく呼吸をしながら往壓は本庄をにらみつけた。
「どうした?何か言ってみろ」
「…変態、下種野郎」
「まだそんな口を聞く余裕があるか」
ここに来て悪態をつけるほどの理性が往壓に戻ってきていたのは、幸だったのか不幸だったのか。
本庄は普段の様子を取り戻した往壓に憤るでもなく愚かだと蔑むでもなくただ楽しそうに笑みをつくった。
そしてその笑みに本能的に怯えた往壓の下帯に触れ、脇へとずらす。
その奥にある蕾は閉まっていたがそんなことは知らぬ存ぜぬと濡らしてもいない指を強引に突き入れる。
「ひっ…」
ぎちぎちと音がするのではないかと思わせるような無理な進入に往壓は声を漏らした。
無骨な指が乱暴に内を擦る痛みに上げる声は何故か悦んでいる声によく似ていて本庄はそれを鼻で笑った。
痛みに眉を寄せる往壓の顔へと近づき耳元で囁く。
「どうした?いつもここに男を咥え込んで楽しんでいるんだろう?」
「んな、こと…あぁっ!!」
ろくにすべりもしない指で内をかきまわされたところで往壓には痛みばかりが増していく。
内壁を刺激されたところでそう濡れるわけでもないのに適当な頃合いで本庄が二本、三本と指を増やす。
その度往壓は胃の中のものが逆流しそうになるのを必死に堪える。
この吐き気は異物感からくる生理的なものだけではないなと感じながら往壓はただ耐えた。
こんな人を人とも思わないような扱いをされたのは初めてだった、だが抗ったところで苦痛が増すばかりなのは今までのことで充分にわかった。
ならばこいつの望むままに声を出せばいいのだろう?
そう諦めながら往壓はただこの苦痛が去るのを待つ。
「…そういえばこんな話を知っているか?」
「あ…?」
「ここには人の拳も入るらしいな」
そう告げながら本庄はぐっ、と指の根元まで突き入れる。
今は三本、指は残り二本だなと低い声が耳に入る。
まさか、まさかと往壓の怯えが急激に膨らんだ。
このまま男根をただ突き入れられたとしてもおそらくは裂ける程度で済むだろうと往壓は経験からわかっていた。
痛みは凄まじいものだがそのぐらいならばおそらく、まだ耐えられるだろうと思っていた。
だが、それが拳となるとそれよりも大きいことは明白で、想像するのもおぞましい何が起こる予感がする。
ろくな準備もなくそんなことをされれば間違いなく死んでしまう、そうとまで往壓に思わせるには充分だった。
生かすつもりはないかもしれない、そうとは思ってはいた。
ただ殺すだけでもないだろうとも思ってはいた、だが始めからこの身を散々痛みつけておぞましいやり方で殺すつもりだったのかと思うと背筋に冷たいものが走る。
いつもと変わらぬ顔で、そんなことをするつもりだったのだとすれば…そんな奴が今目の前にいるのかと思うと、恐ろしいなどという言葉では収まらないほどの恐怖が往壓の身体を強張らせる。
往壓のその表情が気に入ったのか本庄がまた声を出して笑う。
先ほどと、あの踏みにじられる前と同じような笑いがあの衝撃を思い出させて、やがて笑いを止めた本庄がこれも同じように往壓を見る視線に往壓はただ恐怖で震えながら涙を流した。
俺は貫き殺されるのだろうか。後ろに容赦なく拳を突き入れられて。そんな死に方は嫌だ。
言葉も上手く出せない往壓に本庄の口が何かを告げようとゆっくりと開かれる。
やめろ。聞きたくない。やめてくれ―――――。
「…誰が貴様なんぞ相手にするか、汚らわしい浮民が」
乱暴に指を引き抜きその刺激でまた達した往壓を置いて本庄は踵を返して座敷牢から出て行った。
残された往壓は吐精した己を呆然と見詰めながら恐怖がふつふつと心の奥でぶり返していくのを感じとった。
この解放が一時的なものでいつ本庄の、もしくは他の誰かの気が変わるかもわからない。
このまま陵辱され尽くして殺されるのかもしれない。
それがいつなのかもわからない、だがそのときもあいつはきっと同じような残酷な笑みを浮かべているのだろうと想像し往壓はそれが恐ろしくて体を無茶苦茶に動かしてそこから逃げ出そうとする。
だが腕の縛りはきつく頑丈で、ましてや万全でもない体で抜け出せるはずもなくただその身を傷つけただけだった。
しんと静けさが響く中で往壓は助けてくれと誰にともなくぽつりと呟き、そして全てから逃げるように意識を闇へと落とした。