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雲七に感じる想いは、愛だとかそういった綺麗なものではない気がした。
ただ雲七に触れられると熱く身が昂ぶる。
その理由はわからない。ただ、欲しかった。
それは心の問題だったのか体の問題だったのか聞かれれば後者だと俺は言ったと思う。
実際はそうでなくてもそう思いたかった。愛されるとは思わなかったから。
ただ熱を求めるだけの獣、そんな自分でよかった。そう思われてよかった。
常に共にいた親友に邪な感情を抱いたと蔑まれるより、その方が楽だ。
だから冗談交じりに俺を抱いてみないかと散々遊んだ風に装って聞いた。
「私は構いませんよ」
「え?」
あっさりと言われて俺は思わず間抜けな返事をした。
まさか男との経験があるのだろうか。そんな話は聞いていない。
俺の知らないところで?そう思うと胸が苦しかった。
「勘違いしてやいませんか往壓さん。私はあんただから構わないと言ってるんですよ。
それより私からしてみりゃそっちの方が心配だ」
「あ、ああ…大丈夫だ俺は」
別に初物というわけでもないのだし、と内心呟く。
若気の至り、とはよく言ったもので昔の俺は興味を惹きそうなものにはあれやこれやと手を出した。
その中のひとつに、男色だってなかったわけじゃない。
それだって大した刺激ではなかったからすぐに止めた。
ただそれを雲七に言うのは忍ばれただけで、隠そうとしてたわけではない…と言えば言い訳になるだろうか。
そんなことを思っていると雲七がふるふると首を横に振った。
「そうじゃない、私でいいのかって聞いているんですよ。
あんた程の男なら相手する人間はいくらでも選べるでしょう、男でも女でも」
何を言っているんだ、とまず感じたのは呆れに似た感情だったと思う。
お前でなければいけないのに。
それ以外なんて考えたくもないのに。
それを誤魔化そうとしていた始めの俺は直ぐに吹き飛んだ。
「…雲七が、いい」
「よろしいんですか?」
「いいって…」
床で2人着物をはだけさせて下帯さえも緩めてあぁ本当にするんだなとどこかでそれに浸っているときにそう何度も聞かれるのが癪に障ってわざと乱暴に言ってみたが微笑まれただけだった。
見抜かれているような気がした。慣れてるように見せかけてそうでないこと。ゆるゆると自身を弄ばれれば簡単に息は上がる。
普段は賽を振る手が何故こんなに感じるのだろうと思っていると裏の筋を撫でられびくりと全身が震えた。
「可愛いですよ」
「…こんな歳の男に可愛いはないだろうが」
「往壓さんだから言ってるんですよ」
そう言われると気恥ずかしくて居づらいのにどこかで嬉しいと感じてしまうからそれも困る。
まるで恋をしたばかり娘のようだと自分で思ってしまうのがまた恥ずかしく誤魔化すように息を吐く。
息のつもりが声が出た、それも甘さを含んだ鼻にかかった喘いでいるかのような。
自分からこんな熱い声が出るのかと驚いた。慌てて唇を噛んで声を殺した。
「往壓さん、駄目ですよ」
目ざとく見つけた雲七が身を乗り出した。
手は放しはしなかったが顔が近づいてきたものだからつい噛むのを止めた。
「ん…っ何…」
「傷が出来てしまうでしょうに…あぁこんな赤くして」
そう言いながら噛んでいた唇を舐められた。鼓動が急に早くなる。
急所ともいえるところを触れられてるままのせいだと必死に自分を誤魔化した。
まさかこんな些細なことでそれ以上に感じてしまっただなんて思いたくない。
「往壓さん、いいんですよ素直になって」
「しち…っ」
「いいんですよ」
それは声のことを言っていたのかもしれない。
だがその時俺は雲七は全てを受け止めてくれると想った。
この身体も心も愛しい気持ちも、全部。
雲七が下帯を緩め取り出したものを見てぞくりと身震いしてしまうのは恐怖からか快楽の予感からか俺にはわからない。
それを目ざとく見つけたのか雲七が心配そうに顔を覗き込む。
「よろしいんですか?」
また聞かれた。そんなに俺は怯えた顔でもしてただろうか。
返事の代わりに口付けを強請れば笑って答えられる。
深く深く口内で絡み合えばその安心感からか体の緊張は次第に解けていく。
頃合いを見計らって口を離しもう大丈夫だと囁くように告げた。
返事の代わりに再び唇を優しく重ねられ、その一方でゆっくりと進入を始めた。
「んっ…ぅ」
経験がないわけではないとは言えそれも随分昔。
久々の感覚は記憶のそれよりやけに苦しくてそれでもどこか気持ちいい。
それもゆっくりゆっくりと先へと進み全てが俺の中におさまった頃にはじわりと広がる快感の方が勝っていてふと視線を落とせば立ち上がった己が露を零しているのが見えた。
とろとろと、触れられてもいないのに零れる様は涙に似ている気がした。嬉し泣きか。俺もそんな気持ちだった。
「動きますよ」
律儀に言わなくてもと考えた矢先に大きく動かれる。
油断していた俺は抑えられず盛大に声を漏らしてしまう。
自分のものとは思えない声。なんだこれ。
「は、あっ、ぅ…くっ」
「気持ちいいですか?」
「あっ…聞、くな…そんなこ…は、ぅっ」
「そういうわけにも、いかないでしょう?」
俺が高く喘ぎながらも今更な抵抗をしてみると雲七はそう言って微笑んだかと思ったら突きに強弱を加えてきた。
ときに強くときに弱い衝撃になすがままの体が激しく揺れる。
声などもう気にする余裕すらなかった。強い刺激がただひたすらに熱くさせた。
「はぁっ…ぁ…ま、待…まだ…っ!」
「どう、ですか?」
少し荒くなった息で聞きつつも突きを止めることは無い。
弱い突きをもどかしいと感じたかと思うと強い突きがそれを一瞬でそれをかき消すほどの激情を呼ぶ。
何より雲七の声が奥と胸とを刺激する。嬉しい。熱い。愛しい。頭の中がそれでいっぱいになって自然と涙が溢れた。
そんな頭がおかしくなるような快楽に理性なんてもの簡単に吹き飛んだ。
「き、もち、いっ…あ、はぁっ…よす、ぎる……ひっあぁっ!」
「それはよかった」
言葉も上手く紡げない口で叫びながら言うと露を零し続ける俺自身に触れられた。
始めと同じようにゆるゆると上下に擦りながら奥への刺激の速度を速められる。
熔けそうだ。強すぎる熱に何も考えられない、ただ、ただ………愛しさが渦巻いた。
意識を飛ばした往壓を横に雲七は微笑みを浮かべながらその汗を拭った。
まさかこんなこと言い出すとは思いませんでしたよ、と乱れた姿を思い出しながら呟いた。
ふっと意識か理性かを飛ばした往壓は酷く雲七を求めた。
名を何度も呼び足を雲七の腰に絡めながら己の腰を揺すり涙と嬌声を溢れんばかりに漏らしながら情欲を貪り続けた。
それを咎めなかったのだから自分も充分始末に負えないと思いながら往壓の目尻に残っていた涙を拭った。
往壓に男との経験があったことなど、とうに知っていた。
まだ雲七ではなく七次だった頃、珍しく一人飲んでいた所に嫌な笑いを浮かべた男が話し掛けてきたことがあった。
曰くお前あの男の情人なんだろ、と。それが往壓を指していたことに直ぐには気づけなかった。
何の話だと聞くと男はいやらしい笑いを浮かべながら言う。俺はお前とよくいるあの男を抱いたぞ、と自慢げに。
男の不愉快な態度に苛立ちを感じながら往壓さんはまたそんな変なことに手を出したのか、と思ったことを覚えている。
何をしても満足出来ない、だからこそ刺激を求めていることはそう長くない付き合いの中でもわかった。
それがこんな奴にあの身が…と思うと正直気にいらなかった。
だが往壓がそれに何も見出せなかったことはすぐわかった。
その男自身が言ったのだ、あれから何も連絡が来ないのはお前の差し金だろと。
なるほどよっぽど己の技巧で落とせると自信があったのだろう、宛てが外れて無様なもんだと後で一人酒の肴にして笑った。
あれからそういう話は聞いていない。
そうだろう、自分を誘った時のあの怯えのある目は慣れた者のする目ではない。
おそらくその思いを気づかせたくなかったとかそんなところだろう。
遊んでると思われるより想いに気づかれて離れられる方が嫌だなんてあの人らしい。
いや、離れることに怯えるのは仕方のないことか。
今度は声に出さず呟く。
一度別れを経験した。記憶はなくてもその恐怖は心の奥底に残ったままなのだろう。
ならばこの人をこうしたのは自分かもしれないなと穏やかな寝顔を見ながら思う。
「いつだって、一緒ですよ」
雲七として生まれたときも同じことを言った。
そう、ずっと傍に。
そう望んだのはこの人で、そしてそれが私が望む全て。