この話は第二期OP映像視聴前提で書かれています。
見視聴の方は多少のネタバレを覚悟でご覧下さい。







ただ広い果てしない空間に何故か俺は立ち尽くしていた。
何をしていたのだろうと考えすぐに人を探していたことに気づく。
視線を巡らせると誰かが膝をついている。
この人を探していたんだと本能で感じ取り駆け寄る。
その身体は酷く傷ついていてさらけ出した上半身が目に痛い。
いつもは結っている髪も解かれておりばさばさと乱雑に流れている。
早く助けなければとこちらも膝をついて向き合う。
動けそうに無いならば抱き上げて運ぶしかない。
もしかしたら拒まれるだろうか、そんな不安は気配を察したのかゆっくりと上げたその顔を見て消し飛んだ。
見たこともないうつろな瞳で哀しそうな表情で涙を流している。
何より視線はこちらを向いているはずなのにこちらを見ていない。

このままだと消えてしまう。

突拍子もなくそう思ったと同時に体が勝手に動いていた。

「往壓さん!」

名を呼び強く抱きしめる。だがその身体は何の反応も示さない。
意志の強かった瞳は何も映さずただ空を見つめている。
震える唇からは音すら洩れず、まるでこの人だけこの場にいながら別の場所にいるかのようで。
涙だけが止まることなく流れている。そこだけ時間が動いている。
急に体温や躍動を感じない気がして、そんなはずはないのだが何故かそんな気がして、背筋が震えた。

消えるな、消えるなと念じながら抱きしめる。
こんな形で消えていい人ではないはずだ。
何よりこのまま消させたくない、消えないでほしい。
一向に変化の無いその身体に恐怖ばかりが募り押しつぶされそうな気持ちに知らず涙が出る。
それでも抱きしめる腕を放すわけにはいかないと力を込める。

ほんのわずか、反応が返ってくる。


戻ってきてくれ
あなたはここにいる
俺も、皆も
だから、だから…っ


「往壓さん!!」






「何だ?」
「え…?」

返事を返され顔を上げると腕の中にいたはずの往壓さんが不思議そうな顔でこちらを見つめていた。
着物もちゃんと着ているし髪も結っている、何より泣いていない。

「ゆ、往壓さんどうして…」
「どうしてって元閥が…アビが珍しくうたた寝をしてるかと思ったら、
難しい顔して泣きながら寝てる。面白いから見に行ってみろ、ってな。それでつい見に来たわけだ」

そう言われてようやくここが前島聖天でその入り口にかかる段差に腰掛けていることに気がついた。
つまり、さっきのは夢だったのか。

「…よかった」

縁起でもないあんな夢。本当に、心から夢でよかったと思う。
深く息を吐き出す俺を往壓さんは何故か笑いながら見ている。

「こんなところで寝るから悪い夢でも見たんだろ。それにしてもどんな夢を見てたんだ?」
「え?」
「大の男をあんなに泣かせる夢なんて早々ないだろ?」

面白半分で聞いてくる往壓さんにあなたの夢です、とはさすがに言えず
誤魔化すように曖昧に笑う俺をからかうように更に往壓さんが笑った。
その笑顔を見ていると、夢でよかったと再度思った。
こちらを見てくれている。そして笑っている。

「往壓さん」
「どうしたアビ?」
「…いえ」

名を呼び、それが返って来る。
そんなことがこんなに幸せだとは知らなかった。
何故か嬉しくなって笑う俺に変な奴、と往壓さんは首を傾げていた。