この話は第二期OP映像視聴前提で書かれています。
見視聴の方は多少のネタバレを覚悟でご覧下さい。
ここはどこだろうか。
広く広くそして果てしない空間だった。
誰かが膝をついているのが見える。
着物を調えることもせずぼろぼろの上半身をさらけ出し、
結ばれていないぼさぼさの髪で、それでもそれが愛しい人だと分かった。
何故こんな所に、とか一体何が、とかそんな疑問は一瞬で吹き飛んだ。
往壓さんが泣いている。
それに気づいたときすぐに駆け寄って抱きしめたい衝動に駆られた。
あの人を抱きしめるのに理由なんてそれで充分すぎる。
だが抱きしめたく思っても近づくことさえ出来ない。
手を伸ばすことも、声を出すことも、何も出来ない。
己の身はどうなっているのだろうかそれすらわからない。
いや、自分の身体などこの際どうでもいい。
それより往壓さんだ。
往壓さんは見たことのない悲痛な面持ちでどこかうつろな目から涙を零しながら
姿も見えていないのだろうか焦点も合わぬままそれでもこちらを必死に見つめ何かを伝えようとしているように見えた。
その口が開く。震える唇で何か言葉を紡ぎだそうとしている。
聞かなければ、今せめてこの人のために出来ることはそのぐらいなのだから。
往壓さん、私はここにいます
だから、何か言ってください
ちゃんと聞いていますから
だから、だから泣かないで
そう告げようとしても声は出ず、それでも何かを察したのだろうか往壓さんの咽喉が震えた。
声が、聞こえ
『 』
「雲七、おい雲七!」
「…ゆき…あつさん…?」
声にハッと目を覚ますとそこはいつもの見慣れた馬小屋だった。
心配そうに覗き込んでいるのは先ほどまで目の前にいたはずの愛しい人。
だがその姿はぼろぼろでもなくいつもの通りでそれでようやく夢を見ていたことに気づいた。
「大丈夫か?お前うなされてたぞ」
「あぁ…いえ少々悪い夢を見ていたようで」
本当に、悪い夢だった。
思い返そうとしてもうまくは思い出せないが…良くない夢だった。
その様子を見て心配したのかそっと…人であるなら頬を、軽く撫でられた。
あぁ、触れられることがこんなに嬉しいとは思わなかった。
そう目を細めるといつもの調子に戻ったな、と往壓さんが微笑む。
「それにしても馬がうなされてるところなんて初めて見た」
「いや面目ない。夢なんてここ暫く見てなかったもんで」
「まぁでもよかった」
「何がです?」
「お前にずっと悪い夢見させてるままじゃなくてよかった。
色々助けてもらってるから少しぐらいは…助けたくも思うもんさ」
恥じらいながらも語る姿に愛しさが募る。
今こうして目の前に愛しい人がいる、何て幸せなことだろうか。
「往壓さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
そう言って軽く頬に口づけると往壓さんは顔を赤らめて黙り込んだ。
それを見ているとやはり泣いている顔なんかより、この人は笑ったりしている方が全然いいと思う。
そしてこの愛しい人をずっと守っていたい。
そう心から…思った。