この話は第一期OP映像視聴前提で書かれています。
見視聴の方は多少のネタバレを覚悟でご覧下さい。
俺は深い深い青に包まれていた。
ここはどこだろう、目は開けて見えるのは青ばかりで。
はるか遠くに白い光だろうか、ゆらゆらと揺れている。
水の中から太陽を見たらこんな風に見えるだろう、そんなことを考えている間にも身体は徐々に沈んでいく。
やはり水の中のようだ。だが息も出来るし目も開けていられる。
しかし身体を動かそうとしてまとわりつく感じは、やはり水の中のようだ。
なら俺は沈んでいっているということか。それはまずいな。
どこは冷静な頭がそう認識して辺りを掻いてそこから抜け出そうと試みる。
だが水面には一向に近づかない。
それどころか徐々に離れているようだった。
急に不安になり必死に上を目指すがそれでも水面には届かない。
それどころか身体に纏わりつく青が濃くなった気すらする。
逃れられないと錯覚させるような、そんな重さは異界を思い出させた。
あの時見た赤とは真逆の色なのに何故かそれはしっくりきて不安を煽った。
嫌だ、ここから逃げないと。
必死にもがけばもがくほど沈んでいく。
嫌だ、嫌だと気持ちばかりが焦る。身体が言う事をきかない。
やがて掻く力も失ったがそれでも抗いたくて必死に光へと手を伸ばす。
薄れる視界の中それは眩く輝いていて掴みたいのに届かず遠退いていくのが酷く哀しかった。
ただあそこに行きたいだけなのに
やるせなさに涙が出そうになった時、ふと何かが俺の手に触れた。
焦点の合わぬ視界の中それでもそれが誰かの腕だということがわかった。
しかも一人ではない、3…いや4人?
それぞれの腕が力なく伸ばされた俺の腕を掴む。
大きい手小さい手力強い手そのどれも同じではなかった。
だが、どれも何故か安心できると思わせるぬくもりだった。
引き上げられる感覚。水面が光が近づく。眩しすぎて目を閉じる。
誰かが名を呼んだ、気がした。
「…あれ?」
次に目を開けて見えたのは長屋の天井だった。
汗はかいているが水の中にいたというほどではない。
「夢…か」
思い返してみれば変な夢だった、の一言に尽きる。
異界に怯える気持ちが出たとでも言うのだろうか、馬鹿らしい。
夢の中でまであんなことでびくびくするなんて…本当に、馬鹿らしい。
それにしてもあの腕は誰だったのだろう。
少なくとも知り合いの中の誰でもない、と思う。
あんな異質な世界の中で何故か安心できると思える人物なんて早々いるはずもないのに。
ならば誰だろう?
ぼんやりと考えていると時間を知らせる鐘が聞こえた。
日が随分高くなっている、寝すぎたようだ。
「さて、と…仕事行くか」
誰にというわけでもなく呟いて立ち上がる。
湯屋での仕事は多少熱いがそう悪くも無い。
久々に長いこと腰を落ち着けられるかもしれないな、そんなことを思いながら
俺は長屋を後にした。
この時まだ俺はこの先起こることは何も知らなかった。
それが幸か不幸かと言われればどちらとも言えない。
ただその予感だけは心の中のどこかにあった。
安心できる場所が、出来る予感は。